かつて「Made in China」と聞けば、多くのクリエイターは“安いけれど、どこか不安”という印象を抱いていました。しかし、この10年で状況は劇的に変わりました。深センを中心とした中国メーカーは、驚異的な開発スピードと独創的な技術力を武器に、撮影機材の世界地図を書き換えています。
ドローン、ジンバル、LEDライト、レンズ、リグ、フィルター──。
かつて日本や欧米メーカーが独占していた領域に、中国ブランドが次々と参入し、いまや“世界標準”と呼ばれる製品の多くが中国発です。プロの現場で当たり前のように使われるGodoxのストロボ、映像制作の常識を変えたDJIのジンバル、YouTubeクリエイターの必需品となったInsta360の360度カメラ。どれも、10年前には想像できなかった存在感です。
中国メーカーの強さは、単なる低価格ではありません。
ユーザーの声を即座に製品に反映する開発体制、ニッチな需要を逃さない企画力、そして“純正が作らないものを作る”という攻めの姿勢。これらが組み合わさり、世界中のクリエイターが中国ブランドを選ぶ理由になっています。
この記事では、そんな“新しい撮影機材の主役”となった中国メーカーを20社厳選し、それぞれの歴史・特徴・代表製品・競合関係まで徹底的に解説します。
いまの撮影機材市場を理解するうえで欠かせないブランドばかりです。
1. 映像制作の常識を変えたパイオニア:電子・システム系
1. DJI(ディージェイアイ)
- 歴史: 2006年、フランク・ワンによって深センで設立。ドローン市場で圧倒的シェアを誇る。
- 製品ジャンル: ドローン、ジンバル、アクションカメラ、シネマカメラ。
- 主力商品: Roninシリーズ(RS 3/4)、Mavicシリーズ。
- 特徴: 圧倒的な安定性を誇る3軸ジンバル技術と、直感的なUI。
- 国内販路: DJI認定ストア、Amazon、家電量販店、システムファイブ。
- 競合: Zhiyun(ジンバル)、GoPro(アクションカム)、Sony(ドローン・カメラ)。
ドローン、ジンバル・スタビライザー、アクションカムではもはや不動の地位を得ているDJI、私はジンバル撮影をしていないのですが、ジンバルといえばほぼRoninという印象があります。
2. Insta360(インスタサンロクマル)
- 歴史: 2015年設立。360度カメラの分野で一気にトップへ躍り出た。
- 製品ジャンル: 360度カメラ、アクションカメラ、WEBカメラ。
- 主力商品: Insta360 X4、Ace Pro 2。
- 特徴: 「後から画角を決める」という撮影体験の革新と、高度なAI編集アプリ。
- 国内販路: 公式ストア、Amazon、家電量販店。
- 競合: GoPro、Ricoh(Thetaシリーズ)。
家電量販店のアクションカムアクションカムコーナーで売っているのはDJIとInsta360の2社というイメージがあります。
3. Zhiyun(ジーウン)
- 歴史: 2015年設立。DJIと並ぶジンバル界の巨頭。
- 製品ジャンル: スマートフォン/一眼レフ用ジンバル、LEDライト。
- 主力商品: WEEBILL 3S、CRANEシリーズ。
- 特徴: 小型軽量でありながら強力なモーター、独創的なスリングモード。
- 国内販路: ケンコー・プロフェッショナル・イメージング(KPI)、Amazon。
- 競合: DJI、FeiyuTech。
4. Hollyland(ホーリーランド)
- 歴史: 2013年、深センで設立。ワイヤレス伝送システムの代名詞。
- 製品ジャンル: ワイヤレス映像伝送、ワイヤレスマイク、インカム。
- 主力商品: Mars 400S Pro、Lark M2(マイク)。
- 特徴: 低遅延かつ安定した電波強度、洗練されたデザイン。
- 国内販路: システムファイブ、Amazon。
- 競合: Accsoon、Teradek、RØDE(マイク)。
ここ数年はワイヤレス伝送の機材をよく見かけます。競合の会社はAccsoon(四川省)、Teradek(カルフォルニア)など。
5. Feelworld(フィールワールド)
- 歴史: 2009年設立。低価格・高機能な外部モニターで一躍有名に。
- 製品ジャンル: カメラ用外部モニター、スイッチャー。
- 主力商品: LUT6、F6 Plus。
- 特徴: 3D LUT対応などプロ向け機能を、エントリーユーザーが買える価格で提供。
- 国内販路: Amazon。
- 競合: Atomos、SmallHD、Desview。

私も以前ミラーレスカメラ用のモニターを使用していました。比較的安価なモニターをAmazonで購入できるので、ついついお財布も緩みがちに。
2. 独自の進化を遂げる「中華レンズ」:光学メーカー系
6. Viltrox(ビルトロックス)
- 歴史: 2009年設立。マウントアダプターから始まり、現在は高性能AFレンズで躍進。
- 製品ジャンル: 交換レンズ、マウントアダプター、LEDライト。
- 主力商品: PROシリーズ(27mm/75mm F1.2)。
- 特徴: 純正レンズに迫るビルドクオリティとAF性能、開放F値の明るさ。
- 国内販路: 焦点工房、Amazon。
- 競合: Sigma、Tamron、TTArtisan。
最近はレンズメーカーとして活潑な動きを見せる同社は、モニター、マウントアダプターなど安価で堅実な製品が多い印象です。
7. LAOWA(ラオワ / Venus Optics)
- 歴史: 2013年、元大手光学メーカーの技術者たちが設立。
- 製品ジャンル: 特殊交換レンズ(マクロ、広角、シネマ)。
- 主力商品: 24mm T14 2X PeriProbe(虫の目レンズ)、Zero-Dシリーズ。
- 特徴: 他社が作らない「変態的」かつ超高性能なスペック。歪みのない広角レンズ。
- 国内販路: サイトロンジャパン。
- 競合: 各社純正の特殊レンズ、シグマ。
特殊レンズや超広角レンズを開発しているレンズメーカー。海外のYouTube動画ではシネマカメラにアナモルフィックレンズが使用されているのをよく見かけます。
8. TTArtisan(ティーティーアーティザン / 銘匠光学)
- 歴史: 2019年設立。新興ながらクラシックなデザインで人気を博す。
- 製品ジャンル: マニュアルフォーカスレンズ、AFレンズ。
- 主力商品: 50mm f/0.95、27mm F2.8 AF。
- 特徴: 金属外装の質感の高さと、驚異的な低価格。
- 国内販路: 焦点工房、Amazon。
- 競合: 7Artisans、Voigtländer。

比較的安価なレンズを販売しているメーカー。最近はAFレンズも製造しています。SONY Eマウントやフジフイルム Xマウントなど、APS-Cのレンズが充実しているのも特徴です。特に使いやすい23mmのレンズは純正にないか、あっても高額なので選択肢としてはアリだと思います。
9. 7Artisans(セブンアーティザンズ / 七工匠)
- 歴史: 2015年、7人のカメラ愛好家によって設立。
- 製品ジャンル: 交換レンズ。
- 主力商品: 35mm f/1.2 II。
- 特徴: 「安くて写る」中華レンズの火付け役。クセのあるボケ味が個性的。
- 国内販路: 焦点工房、Amazon。
- 競合: TTArtisan、Meike。
とにかく明るい(F値の小さい、ボケやすい)レンズをかなり安価に製造しているメーカーです。ミラーレスカメラはマニュアルでの撮影に向いているので、ゆっくりスナップを撮りたいかたにはかなり使って楽しいレンズが揃っていると思います。
10. SIRUI(シルイ)
- 歴史: 2001年設立。三脚メーカーから、現在はアナモルフィックレンズの覇者へ。
- 製品ジャンル: 三脚、アナモルフィックレンズ、LEDライト。
- 主力商品: Venusシリーズ(アナモルフィック)。
- 特徴: 映画のようなシネマスコープ撮影を個人レベルで可能にした低価格アナモ。
- 国内販路: 常盤写真用品、Amazon。
- 競合: 各社三脚メーカー、シネマレンズメーカー。
家電量販店では三脚のイメージが強いですが、インパクトが強いのはアナモルフィックレンズです。もともと安価な印象ではなかったですが、日本のメーカーとも遜色ない価格帯で、技術力で闘っているのだなと感じます。
11. Meike(メイケ)
- 歴史: 2005年頃設立。ストロボやバッテリーグリップからレンズへと拡大。
- 製品ジャンル: レンズ、シネマレンズ、カメラアクセサリー。
- 主力商品: S35/Full Frame シネマレンズシリーズ。
- 特徴: 非常に低価格ながら、ギア付きの本格的なシネマレンズをラインナップ。
- 国内販路: Amazon。
- 競合: 7Artisans、Rokinon。
12. Yongnuo(ヨンヌオ)
- 歴史: 2000年代中盤にストロボの互換機で有名に。
- 製品ジャンル: レンズ、ストロボ、LEDライト。
- 主力商品: YN35mm F2、YN50mm F1.8。
- 特徴: 純正レンズのクローンに近い構成を格安で提供。近年は独自のAFレンズを開発。
- 国内販路: Amazon。
- 競合: 各社純正(エントリーモデル)、Godox(ストロボ)。
ヨンヌオといえばかつてはスピードライト(クリップオンストロボ)やそれらを無線化するためのラジオスレーブでよく使用されているメーカーでした。筆者はスタジオ据え置きのストロボを使用するときにシンクロコードをラジオスレーブに接続して使っていました。いまでは若干「懐かしい」印象のメーカーです。
3. ライティング・アクセサリのゲームチェンジャー
13. Godox(ゴドックス)
- 歴史: 1993年設立。ライティング機材において今や世界標準。
- 製品ジャンル: ストロボ、LEDライト、無線コマンダー。
- 主力商品: AD200Pro/AD300Pro、V1。
- 特徴: Xシステムによる完璧なワイヤレス同期。プロの現場でも通用する信頼性。
- 国内販路: ケンコー・プロフェッショナル・イメージング(KPI)、Amazon。
- 競合: Profoto、Westcott、Nissin Digital。

アマチュアからプロの現場までどこでも見かけるメーカー。どのメーカーのカメラでも非常に使用者が多いと思われます。価格的な魅力もありますが、無線システムの使いやすさも大きな魅力です。最新機種でなくても機能は十分なので、1世代前のAD300ProやAD200Proなどおすすめします。もちろんTT600等安価なものでもよいですが、同じストロボを2〜4セット使えるとライティングの自由度がかなり上がります。
14. Aputure(アプチャー)
- 歴史: 2005年、深センで設立。映像用LED照明の最高峰。
- 製品ジャンル: 高出力LEDライト、ソフトボックス。
- 主力商品: Light Storm 600d Pro、Amaranシリーズ。
- 特徴: 極めて高い演色性(CRI/TLCI)と、スマホアプリ「Sidus Link」による統合制御。
- 国内販路: アガイ商事、システムファイブ。
- 競合: Nanlite、ARRI。
全くアマチュア向きではない価格帯で、基本的には映像のプロが使用するメーカーです。
15. Nanlite(ナンライト / Nanguang)
- 歴史: 1992年設立。親会社はNanguang。
- 製品ジャンル: LEDライト(チューブライト、モノライト)。
- 主力商品: PavoTubeシリーズ、Forzaシリーズ。
- 特徴: チューブ型LEDの先駆け。クリエイティブなエフェクトと高い携帯性。
- 国内販路: VANLINKS、Amazon。
- 競合: Aputure、Godox。
比較的安価なものもありますが、Aputure同様に仕事で使う製品という印象のメーカーです。
16. SmallRig(スモールリグ)
- 歴史: 2012年、ユーザーとの共同開発を掲げて設立。
- 製品ジャンル: カメラケージ、リグ、三脚、ライト。
- 主力商品: カメラケージ各種、「Black Mamba」シリーズ。
- 特徴: 新製品発売後のケージ製作が異常に速い。ユーザーのフィードバックを即製品化。
- 国内販路: 直販サイト、Amazon、システムファイブ。
- 競合: Tilta、Wooden Camera。
筆者が個人的に好きな深圳発2大カメラ機材ブランドの一つです(もうひとつはGodox)。動画制作で使用するケージやリグも大好きなのですが、使用頻度的には静止画の人物撮影で三脚を使用する際、基本的に縦位置で撮るのでLブラケットが大活躍しています。
ハスキーの雲台にあるかスイス互換クランプを取り付けると、カメラをセット、即撮影ができます。Lブラケットがない状況は考えたくないくらいとても重要です。2018年頃α7RIII用に購入して以来、静止画を撮るカメラには必須の機材です。
17. Tilta(ティルタ)
- 歴史: 2010年設立。よりシネマチック、本格的なリグを得意とする。
- 製品ジャンル: ケージ、フォローフォーカス、ジンバルアクセサリー。
- 主力商品: Nucleus-M(ワイヤレスフォローフォーカス)、Hydra Alien。
- 特徴: 高い切削精度と、DJIジンバル等との高度な親和性。
- 国内販路: Tilta Japan、Amazon。
- 競合: SmallRig、Bright Tangerine。
動画用リグ・ケージはほとんど全てをSmallRig製品で揃えているため、筆者はあまり縁がないのですが、デザインのかっこよさはTiltaが2歩くらい上をいっていると思います。
18. Leofoto(レオフォト)
- 歴史: 2014年設立。三脚業界に「高精度カーボン」の嵐を巻き起こした。
- 製品ジャンル: 三脚、雲台。
- 主力商品: LSシリーズ(レンジャー)。
- 特徴: 某有名メーカーを凌駕するとも言われる切削加工精度と、センターポールレスの合理性。
- 国内販路: ワイドトレード。
- 競合: Gitzo、RRS(Really Right Stuff)。
卓上三脚は国内メーカーでもここまでクオリティの高いものがないジャンルです。MT-03+LH-25は比較的古い三脚なのですが、発売当初からずっと使用しています。コンパクトなので旅の必需品です。
19. NiSi(ニシ)
- 歴史: 2005年設立。角型フィルターの世界的ブランド。
- 製品ジャンル: フィルター、レンズ。
- 主力商品: V7 角型フィルターシステム、可変NDフィルター。
- 特徴: 光学ガラスの質の高さと、色被りの少なさ。
- 国内販路: NiSi Filters Japan。
- 競合: Lee Filters、Hoya、K&F Concept。
可変ND(VND)フィルターが有名です。私は可変タイプが好きではないのですが、マグネットタイプのフィルターは頻繁にフィルター交換をするなら検討してもよいと思います。
20. K&F Concept(ケーアンドエフ コンセプト)
- 歴史: 2011年設立。コスパ最強のアクセサリーブランドとして君臨。
- 製品ジャンル: フィルター、三脚、マウントアダプター、バッグ。
- 主力商品: NANO-X シリーズ(ND/CPLフィルター)。
- 特徴: 圧倒的なコストパフォーマンス。初心者から中級者までをカバーする網羅性。
- 国内販路: Amazon、自社ストア。
- 競合: Kenko Tokina、Neewer。
フィルターが豊富なアクセサリーメーカー。上記のカメラバッグは都内で10人以上目撃したことがあります。
ステップアップリング・ステップダウンリングがあると、レンズごとにフィルターを買い直さなくてよくなるので非常におすすめです。基本的には一番経の大きなレンズに合わせてフィルターを購入すればよいのです(フィルターの効果によっては適さないものもあります)
あとセンサークリーナーも必須アイテムですね。何度もリピート購入する機材のひとつです。
いま、中国メーカーは「安さ」ではなく「基準」を作っている
ここ10年で、中国の撮影機材メーカーは“低価格の代替品”という立場から完全に脱却しました。
DJI、Godox、Insta360、Aputure、SmallRig──。
気がつくと、さまざまな機材の「業界標準(デファクトスタンダード)」を確立してしまいました。いま世界中のプロが日常的に使う機材の多くは、中国ブランドが作り上げたものです。
その背景には、深センを中心とした圧倒的な開発スピード、ユーザーの声を即反映する柔軟性、そして“純正が作らないものを作る”という攻めの姿勢があります。
これは、成熟しきった日本・欧米メーカーには真似できない強みです。
